#02 人生初となる個展への決意【香久山雨スペシャルインタビュー】


香久山雨スペシャルインタビュー「創造の向こう側へ」ナビゲーターをつとめます、マインドフルネス・セラピストの三嶋かよです。今日は2回目ということで、1月に開催する雨さんの個展について、お話を伺っていきたいと思います。



三嶋かよ:まずはそもそも個展を開こうと思われたきっかけを、教えてください。



香久山雨:1月に開催する個展というのが、私にとって初めての個展なんですね。31歳で個展をやるっていうのは早くはない。すごい遅いってわけでもないけど。でも、美大を出て7年、8年経ってやっと個展をするっていうのは、私の中ではかなり満を持して、一大決心、みたいなところがあります。


なんでこんなに長いこと自分の責任で、自分だけの作品を展示する機会っていうのを持たないできたかっていうと、絵を見てもらって、何を感じてもらったらいいのか?っていうのが、分かんなかったんですよ。ずっと。


私けっこう堅物な、頭固いところがあって、自分が分からない状態で人に絵を見せるのができなかったんだよね。今まで個展ができなかったのはそういう理由。


今回やっと、自分の中から人に伝えたいメッセージが出てきたのかというと、実はそういうわけでもない。諦めがやっとついた感じなんです。この先もずーっと分かんないんだ、答えなんて出ないんだってことにやっと気づいた31歳!みたいな。マヌケな話なんだけどね。


だけど、伝えたいことが何なのかは分からないんだけども、直感的にすごく見せたいと思った。私が今まで頭の中で大事に温めてきて、一生懸命に自分の体を通して描いてきた絵は、まだちょっと、何なのか分からない部分もあるんだけど、すごく見て欲しいと思ったんだよね。こういう気持ちになれたことが、生まれて初めてだった。すごい進歩があったんだと思う、私の心の中に。


なんでそういう風に変化したのかっていうのは、やっぱりコロナが流行して、引きこもえざるを得なかったから。


引きこもっていることが、すごい幸せだったんだよね。今まで外に出て、っていってもどちらかって言うとインドアだから、あまり出てなかったんだけど、外に出るっていうことが、自分のためになっていなかった、ということがすごくよくわかった。今回。


もっと自分の世界に引きこもって、自分の好きなことだけ黙々とやるっていうのが、こんなに幸せなんだっていうのが分かって。こんな幸せな気持ちで創ったものだったら見せた方がいいじゃん!みたいな。すごいそういう短絡的な発想で、今回個展を決めました。



三嶋かよ:家にいて、ある意味、絵だけ描いていていいよって言う許可が出たというか。



香久山雨:許可が強制的に出たって感じ。外で働くより、家で、お金にならないけど絵描いてていいよという許可が。世界的にそういう流れが来て、そういうふうにいざやってみたら、楽しい。今まで、ひとりぼっちで絵を描き続けるのは辛いと思ってた。



三嶋かよ:それは自覚あり?



香久山雨:自覚があって、世の中に取り残されているような気持ちに、月並みになっていた。すぐにお金になることの方が魅力的だったりするじゃん。だけど、そういうのを取っ払って、いざ、引きこもって描いてみたらすっごい楽しいじゃんっ!ていうことにやっと気づいたんだよね。


世界的にはすごく大変な一年だったけど、私にとっては自分に向き合って、自分の好きなことを、本当に毎日毎日、チクチクするっていう機会を与えてくれた素晴らしい一年だった。



三嶋かよ:絵を描く喜びを改めて感じて、確認して、これなら見て欲しいって?



香久山雨:そう。だから子供の時の感覚に戻ったって感じかもしれない。自分がとにかく描いて楽しい。で、できた物をすごく見て欲しいって。子供の時って、みんなすごく、肯定的に見てくれるじゃん。けなしてくる人とかいないじゃん。「偉いね」「すごいね」としか言われないのよ。可愛いから、子供ってだけで。


だけど、大人になって、しかも芸大に行っちゃって、厳しい批判みたいなもの、評価、社会の目とか、売れる売れないとか。そういう目があるってことも、散々学んできちゃったわけじゃないですか。だから、そういうのが月並みに辛かったよね。すごく普通に、つまずいてた、私は。そういうところで。人に評価される苦しみに、普通につまずいてた。それで普通に嫌になっちゃって、普通に傷ついて、普通に嫌になったわけ。で、普通にちょっと描かない時とかもあった。



三嶋かよ:離れてた時もあったんだ。



香久山雨:あった。卒業して3年間くらい描いてなかった。描いてないで何してたかっていうと、エステサロンを自分でやって、独立するために猛烈に頑張ってた。



三嶋かよ:その3年間は、そっちにコミットしてたんだね。



香久山雨:コミットしてたし、しかも同時期に子供を産んで育ててた。0歳児を抱えながら、私は起業準備をしてたから、物理的に、絵を描く余裕がなく、やらなかった。脇目も振らずに他のことをやりまくって3年経って、ふとしたら、やっぱり描きたくなった。


私は、人に評価されたいから描くわけじゃないんだな、ということに、その時気づいたと思う。自分にとって必要だから、描けばいいんだという許しが出た。


でも、そこで結局、自分のために描くだけだったら、人に見せなくてもいいのよ。だって描いて満足なんでしょ?って話だから。2016年ぐらいから絵は描き始めたけど、改まって人に見せることに積極的になれなかったのは、そういうツッコミを自分にしてたからだよね。


自分にとって描くことは必要でも、「この絵を人に見せる必要性があるのかどうか分からない」みたいな時期が長らくあったけど、なんかもう、理由なくてもいいから見せたいって気持ちになっちゃった。


ある意味、トラウマがちょっと癒えてきたのかもね。批判されたりとか、嫌なこと言われたりとか、そういう思い出を引きずってたけど、最近思い出さなくなってきた。思い出してもどうってことないと思えるようにもなってきて、そしたらやっぱり、私は絵を見せたかったんだなっていうことに気づいた。



三嶋かよ:まさに素直に絵を描いて、見て見て!って言っていた感覚に戻ってるってことだよね。



香久山雨:そう。戻ったけど、でも絵自体はずっとチクチク描いてきて、レベルアップしてるから、そんな無邪気なものには見えないと思う。もっと意味深なものに見えると思うけど、実際は、別にそこまで意味はないです。



三嶋かよ:純粋に描いたものを見せたい。見てほしい。



香久山雨:どう思ってもらってもいい。まあ、でもなんだろうな、私が自分の絵をいざ、言葉にして紹介しますっていった時には、私なりの見方があるけどね。それはそれで、聞いて欲しいって思う。



三嶋かよ:楽しみですね。ほんとに。場所もすごく思い入れがある、銀座の奥野ビルを選ばれたってことだったんだけど、その場所についての話も教えてもらってもいいですか?



香久山雨:個展をやるって決めた時に、場所は銀座がいいって思った。銀座が一番画廊の数が多いし、アートが好きでふらふら色々見て回ってる人が多いんですよ。多くの人に見てもらいたいっていう欲望もあったんだよね。だから銀座にした。


じゃあ銀座の中で、どこにしようかなと思った時に、いろいろ見た。その中で惹かれた奥野ビルはめっちゃ古いビルです。古くて、エレベーターに蛇腹の手動のドアが付いてるんですよ。挟まるかもしれないから、みんな気をつけてねって感じなんだけど。もともと集合住宅なんだよね。高級アパートだったから、人が住んでた場所。そこを改装して、今はギャラリーがいっぱい入ってる。私が展示するところは巷房2というギャラリーで、地下なんですよ。


その地下って、昔は共同浴場だったんだって。お風呂場だったの。そのお風呂場をぶち抜いてギャラリーにしたみたい。だから、そこはかとなく、その怪しさが残ってるの。



三嶋かよ:その空間の雰囲気として?



香久山雨:そう。雰囲気がやっぱり上とは違うなと思った。上のギャラリーが入ってる所って住宅だったわけじゃん。でも私がやるギャラリーだけは、お風呂なのよ。窓とかもないし。もちろん地下だから、自然光は入らない。謎の暗い感じっていうか、謎の湿気を感じるっていうか、水の気配っていうか。今は水気なんてないんだけど、何となく水の気配がするような、独特の感じっていうのが、他のギャラリーにはない不思議な魅力を感じた。


結局、現代のギャラリーって、真っ白い部屋があって、その中に絵を飾って、ある意味、不自然な空間じゃん。絵を買って飾る人っていうのは、基本的には自分の住宅に飾るわけだから、真っ白な部屋になんて持ってない。だけど、そうやって架空の空間、真っ白い変な部屋を作って、そこで作品だけを見てもらうっていう、そういう文化なんだよね、ギャラリーで展示するって。だけど、ぶっちゃけこれって日本でやんなくてもいいような気がしてる。


日本って元々は、例えば縁側があって庭が見えて、その庭を見ながらぼけーっとして、客間には床の間があって、掛け軸があって、花が生けてあって。自然から何から全て、一体化して、その中に芸術もあるっていう文化なんだよね。全部が繋がっている。この場所だから、この絵じゃないといけないとか、この場所だからこの花じゃないといけないとか、そういうのがあるわけじゃん。そうやって自然と人が創ったもの全部を調和させて人をもてなすっていうのが、日本の文化だったはずなんだけど、今、私たちが、銀座とかでいっぱい見るギャラリーっていうのは、そういう文化の上にはもう成り立ってないわけ。


結局、欧米の現代アートの文化っていうのは、自然とか建物とか、そういうものからは切り離された真っ白い空間で、絵だけ見てくださいと。でも、これは日本の文化ではないよ。そんなこと日本人は考えないと思う、調和を大切にする民族だから。


私は日本人がわざわざ、欧米のギャラリーみたいな真っ白い壁で、外の世界とは関係のない空間を作って、そこに絵をかけて、絵だけをみてくださいっていう風にプレゼンする理由は特に持っていないと思う。でも、それを良いものとして取り入れてきたわけだよね、日本は。だけど、やっぱり元々日本にあった文化じゃないから、そこまでうまく広がってるかっていうと、そうではないと思うんだ。


だから、もっと欲を言えば、私はこの場所じゃないと成立しない作品を創りたい。でも、今のところそれができる環境に自分はいないので、とりあえず自分が創った作品をギャラリーに展示しますっていう形で落とし所とした。


この奥野ビルの地下っていうのは、「お風呂でした」というバックグラウンドがあるじゃん。だからそのバックグラウンドが、なんかちょっとエロいっていうか、何て言うの?お風呂って人間が裸になって身体を清めるところじゃない?共同浴場だしね。雑多な感じがいい。私も骸骨の絵を描いて、骸骨と骸骨が絡んでる絵とか描いてるじゃん。だから、イメージが合うなって思ったんだよね。でも、何の予備知識もない人が巷房2に行っても、ここはお風呂だったってことは分からない。けど、感じるものはあるんだよ、絶対。場所って記憶があるから。そういう、ほんのちょっとした記憶を感じてもらうっていうのが大事かな。



三嶋かよ:楽しみだね。



香久山雨:ちょっと怪しい空間にしたいなと思ってる。



三嶋かよ:その空間に雨さんの作品があるっていうのを思い浮かべるだけでも、ゾクゾクする!



香久山雨:面白いじゃん?その共同浴場で体洗ってた人たちはみんなほとんど死んでるわけで。そこで私は、ちょっとヴァニタス画チックっていうか、死者みたいなもののイメージが強い絵、骸骨と花とかを描く。そして巷房2という場所を介して死者と繋がる。というのも、私の中ではコンセプトとしてあるんだよね。歴史を感じてもらいたい。



三嶋かよ:相性ぴったりな場所だね。今の雨さんにとって良い場所なんだろうなぁ。楽しみだね。その場所の雰囲気も見てみたいなと思います。


個展の展示数を欲しいんだけど、何点ぐらい作品は見れるの?



香久山雨:大きい作品が4つぐらいと、バックヤードになっているところに小さい作品をいくつか出そうと思ってます。大きい作品をは全部1メートル以上ある。結構、圧があると思います。



三嶋かよ:圧倒されそうだね。その空間で。



香久山雨:骸骨たちに囲まれてちょっと息苦しいくらいの感じを、私は目指してる。バックヤードの方に行くと小品があって、息抜きができる。骸骨の圧迫感から逃げられるくらいの空間は創っておくから。でも、大きい作品をメインにして出すので、気軽な感じではない。



三嶋かよ:なるほど。ありがとうございます!


初めて私が雨さんから、個展を考えてるって聞いたのが5月の終わりで、そこから7ヶ月経ってるんだけど、個展を決めてからこれまでの心境の変化を、お話しいただけたらと思います。



香久山雨:描けば描くほど諦めが肝心だっていうということを思い知らされてる。もっと描きたいとか、本当はもっとこうしたいのにっていうのが常にあるわけですよね。画家だから、私は。でもやっぱり、時間的制約、体力的制約、その他もろもろ、理想まで行けないということの方が圧倒的に多い。だけど、それはそれで良いんだっていう風に思えるようになってきたのが、すごい成長だと思う。


前は許せなかった。許せなくて、自分がいけないんだって思ってた。自分に実力がないとか、自分に体力がないとか、自分に計画性がないからダメなんだって。自分をいじめる理由に使ってた、作品制作を。理想があるからそういう気持ちになるんだけど、ただ、理想があっても自分のことをいじめなくてもいいじゃん。



三嶋かよ:本当はね。



香久山雨:そう。理想があるのは良いことなのよ。それがないと上手くならないし、創りたいものも創れないから。だけど、そこに辿り着かなかったからって自分をいじめなくてもいいんだと、やっと飲み込めた。



三嶋かよ:大きな変化だよね。きっとそれは。



香久山雨:逆に言うと、自罰的になっていられる程、今まで暇だったんだ!みたいな。



三嶋かよ:時間的な余裕ってこと?気持ち的に?



香久山雨:時間的にも、気持ち的にも。個展を決めれば、自分の作品しかないから、もう全部自分の責任じゃん。どれかの作品が納得してようがしてまいが、出さなきゃいけないのよ。ちゃんと出したいじゃん。でも、今まで切迫感がなかったんだなって。何がどうであろうと、ここまでやるっていう風に決めたからこそ乗り越えられたと思う。だから自罰的になってる時って、暇なんだ。



三嶋かよ:なるほどね。ある意味追い詰められてからの方が、開放的にと言うかね。



香久山雨:もうね、どうしようもならないっていうことが分かったんだよ。自罰的になってるあいだは、自分を責めればどうにかできるって思ってるの。自分を責めることで、もっと奮い立たせることができるとか、勘違いしてるんだよね。でも、そんなことをしてる余裕もないってなった、今回は。そんなことしてる暇があったら、ちゃんと寝てちゃんと描いた方がいい、っていうことにやっと気づいた。



三嶋かよ:だからやっぱり、雨さんにとって個展をするって決めてからのこれまでの期間は、「気づき」の時間なんだよね。


次回は、雨さんの作品作りのプロセスについて、お話しを伺っていきたいと思います。



————

【香久山雨 個展】

2021/01/08 ~ 16 (会期中無休)

12:00~19:00 (最終日 17:00まで)

東京都中央区銀座1-9-8 奥野ビル B1F 巷房2

✴︎ギャラリーホームページ

http://gallerykobo.web.fc2.com/

【solo exhibition 】

2021/01/08 ~ 16

(We open everyday during exhibition)

12:00~19:00 (last day 17:00)

KOBO2 B1F Okuno building 1-9-8 Ginza Chuo-ku Tokyo-to JAPAN


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